山仲間


 退職後に田舎暮らしを始めた山仲間から連絡が入り、札幌に出てくるという。
膵臓癌になってさ、抗がん剤治療の前に仲間に会おうと思って」の言葉にショックを受けた。
「えっ、なんで?それは助からんでしょ!あははははじゃないわよ....」「そうなんさ」明るく笑いながら答える彼女に唖然とした。


 彼女は元看護師で元気印そのものだった。癌は突然発生し、元気な人も関係ないってこと?もう一人の仲間も大腸癌が見つかり、すでに肝臓に転移していて、ステージ4とのこと。そんなことってあっていい? これは大変!絵なんか描いている場合じゃない。大学をサボって街中でお茶タイム。


 女三人で日高、ピリカヌプリの沢に入り、夜中に雨が降り箱状の沢は滝と化し引き返したことがある。私が渡渉に失敗し流されて滝壺に落ちた時、彼女の判断は素晴らしかった。
 ザイルを石に巻きつけてから流したのだ。おかげで滝壺で一回転して浮いてきた。そのまま流されて岩に乗り上げることができた。酸欠で頭がガンガンするのでアスピリンを飲み、なんとか渡渉することができたが、今度は寒さで歯がガチガチし震え出した。彼女は私を銀マットでぐるぐる巻きにし中でストーブを焚いて温めた。


 女三人組はキリマンジャロにも登頂した。20人のメンバーのうち登頂できたのは私たち山の会のメンバー三人だけだった。久々に、そんな、あんな山の失敗談に話しが弾んだ。


 なのになのに、二人とも癌だなんて.....。
「二人に一人は癌で逝く時代よ。先に行って、待っているからさ」と二人は底抜けに明るい。胸に点滴用の針を刺したまま、山スキーにも行っているというし、なんて強くて素敵なんでしょう。二人に共通しているのは精一杯生きてるってこと。
 二人からエネルギーをもらった素敵なお茶タイムでした。