青年ブルータス


 石膏「フランス夫人」のお面に四苦八苦し、全くにてないので「これって、センスのかけらもない?ってこと」と自問自答していたら、「つるっとした女性の顔は難しいんですよ」とのこと。男性は角ばっていて影ができるので描きやすいのだそうだ。青年ブルータスの石膏像を選んでくれたが、なんだかこれも難しそうと、鉛筆を持つ手がなかなか進まない。


 そこへ、やってきた社会人の青年。
隣に座ったので、同じ石膏を描くのかなと思ったら、先生が設定したのは「おじさんブルータス」だった。おじさんブルータスは眉間にしわを寄せて渋い顔をしている。ーーー青年でよかったわ、とホッとする。


 隣の青年は、渋いブルータスおじさんの目をチマっと画用紙の真ん中に描いた。
あれれ? わたしよりもセンスがなさそーと思っていたら、先生がきて説明しだした。
 画用紙を石膏像の隣に並べて、実物大が一番描きやすいのだけど、1割くらい大きく描くと、あとで調整しだしたときにちょうど良い大きさになるのだそう。中心を決めて顔の位置と傾き、体の向きを決めてから測るといいと説明している。



 そこまではわたしも知っている。と、横目で見てたら、彼は画用紙の真ん中に中心線を縦に引いて、目と鼻、口の位置にメモリをつけている。え〜っ、大丈夫だろうか? と他人事ながら心配になった。陰影を落とすのではなく顔のパーツを落とそうとしている。


 まえの「フランス夫人」の失敗が蘇った。輪郭やパーツを似せようとしても似てこないのは陰影から捉えていなかったからなのだ。失敗は次に生きるってことよね。


 いつも生徒に言っていた言葉を思い出した。
「失敗はチャンスよ! 失敗は記憶に残るから覚えやすいのよ」と言っていたわね。