才能


 不登校だった高校生が芸大に合格したという。
1年前、スケッチブックを抱えた男の子がやってきて、開いたらモジリアニとか近代絵画の巨匠のデッサンによく似ていたという。もちろん、彼は絵の事など全く知らず、だだやみくもに描いていただけ。なにかあるなと思い、あまりとやかく言わず、自由に描かせていたのだそう。


 この生徒は音楽や演劇にも興味があり、寺山修二風アングラ劇団にも顔をだしていて、芸大受験をやめて音楽にしようかな?と言い始めたのを「受験してから決めても遅くないから。ただ、君はボーッとしてるから、転んだら、右手じゃなく左手をつくように!」とだけアドバイスをしたそう。

 
 絵や音楽は才能がモノを言う。
週明け、アトリエに新しいデッサンがあって「うまいなぁ。誰だろう?」と思っていたら、ハーフの高校生だった。
「君のだったの? うまいね〜!」と感心したら、
「いえいえ、まだまだです」とタイの生徒のような言葉が返ってきた。
「芸大受けるんでしょう? 北海道は優れたアーチストがいないから楽しみにしてる」と言ったら、
「ぼくはフランス人です」という。
「ということはフランスで生まれたのね?」

 お父さんがフランス人で芸術関係の仕事をしていたので、小さいことから絵を見たり、描いたりしていたんだそうな。彼の才能のベースには父親の影響とたくさんの絵画鑑賞があったってこと。ーーー羨ましい!


 で、わたしのデッサンの方は石膏になって、急に難しくなった。
白いものを並べてトーンを表す練習をしてから、足の石膏デッサンをした。足は表情がなく中心が決められないから難しい、と言われて、なるほどおっしゃるとおり。顔の方が表情があるので似せることができるという。

 ま、変な足が出来上がったけど終わりにし、美しいギリシャの少女の面をデッサンすることにして、悪戦苦闘していると、
「また、ずいぶんと難しいものを選んだね」と園長先生に言われて「アシスタントの方が易しい、と言いましたよ」と言い訳しても始まらない。先生はこりゃ、いかんと思ったのか、シャレコウベを持ってきて人体構造の説明を始めた。そのうち、わたしが山登りしていたので山用語を使い出した。山があって谷、稜線が大事!立方体を捉えるには稜線がポイントなんです、と力説。


 写真は似せて描けるのに石膏はどうして似ないんだろう?
多分、答えはこうだ。写真は平面なのに対して、石膏は立体だから立体として捉えないと似てこないのだ。