向田邦子「かわうそ」


 若いころ、向田邦子の「銀座百点」を楽しみにしていた。
なんてすてきに言葉を表現をする人だろうと思った。黒い服を好んで着ていたそうで、周りから「クロちゃん」と呼ばれていたそうな。おしゃれで旅好きな「クロちゃん」は憧れの人だった。美味しいもの好きであり、全国の美味しいお菓子や地方の物産などの「うまいもの」の引き出しを持っていた。料理がうまく、プレゼント上手でもあったらしい。
 わたしも真似て「う」の引き出しを作ったり、向田さんお得意のエリザベス(カーディガン)を編んだりしていた。

 
 向田さんには一回りほど年上のカメラマンの恋人がいたことが、死後明らかになった。
昨夜「かわうそ」の朗読を聴いていて、あの話は脳卒中の後遺症で半身が不自由な彼のことがベースになっていたのだ、と思った。
そう解釈すると、主人公の奥さんが顔の分だけ襖を開けて病身の夫と話をするシーンは、自分たちのことなのかもしれない。向田さんの顔立ちも、目と目が離れていて愛くるしく動き回るカワウソに似ている。


 向田さんの連続ドラマは見たことがないけれど、「冬の運動会」や「阿修羅のごとく」「あ、うん」など、いまでもシーンとセリフを覚えている。家族をテーマにし、人間が持っている修羅を描いた。以後、向田さんのような脚本家があらわれていないのは、なぜだろう......。
 向田さんが台湾の飛行機事故で亡くなって34年になる。いま、また向田さんが注目を集めているという。