山の老舗「秀岳荘」


 北海道の山の老舗「秀岳荘」の金井恒夫氏が亡くなったと知らせが入った。
彼は、テントの修理やオリジナルなリックなど、山道具の修理、製作を担当してきた職人さんで、南極登山のときにお世話になった。


 エベレスト登頂のとき、登山ルートに放置された何体かの遺体を目の当たりにして、「シビアな山を続けていたら、わたしもこんなことになるのだ.....」と、路線を変更して大学に入学したが、やっぱり、山を止めるのは「世界の7大陸の最高峰」にトライしてからにしよう、と決心して、1年次の春に北米のマッキンリー、夏にロシアのエルブルース、冬に南極大陸と計画した。ところが、エベレストで使った高価な装備をみんなシェルパ・スタッフにあげてきてしまい、新たに羽毛服やオーバーシューズ、シューズに合うアイゼンが必要になった。



 山は莫大な費用がかかり、考えあぐねて秀岳荘の社長の金井哲夫氏に「装備を原価でお願いできないか」と相談した。
お店に来るように言われ、仕事帰りに会いに行った。すると、「好きなものを選ぶように」とおっしゃる。「一人分の装備は高いものじゃないから、提供します!」とのこと。飛び上がるほど嬉しかった。


 そのあと、金井恒夫氏が靴に合わせたオーバーシューズを作ってくださり、アタック用のリックを使いやすいように改造してくれたのだ。わたしだけではなく、山を愛するたくさんの方が彼のお世話になったことと思う。


 こころからのご冥福をお祈りいたします。