「日本兵を殺した父」デール・マハリッジ


 ピュリツアー賞作家が第二次世界大戦沖縄戦に加わった父とその友人を取材し、戦争の悲惨な実態と戦後の家族の暮らしを辿ったノンフィクション作品。著者は2011年にNHKスペシャル番組でも取り上げられたそうだ。


 わたしが子供のころ、父は南方で戦ったと言っていた。美しい海の話をしてくれて、家の床の間には面白い形をした美しい貝がらとヤシの実で作った飾りものがあった。父の兄は中国で戦死したそうで仏壇の上の額に収まり、祖母が神様のように崇めていた。


 戦争を悲惨な現実として受け止めたのは、仏間にあった古びたトランクを開けたときだ。資料館にあるような革製トランクには戦時中の写真が保存されていた。山積みにされた赤ん坊の死体や銃殺の現場などがあり、中学生だったわたしは息が止まりそうに驚いた。
 戦場から無事に帰還しても戦闘の後遺症でトラウマに悩まされ性格が粗暴になると言われている。父もそうだった。酒が入ると粗暴になりガラス戸は壊され、母は気が狂ったように泣きわめき、祖母は戦死したのが逆だったらよかったのにと嘆いていた。


 そんなことが甦り、著者の過ごした子供時代と重なった。
著者の父は家族を養うために身を粉にして働き、多くを語ることなくして亡くなった。太平洋戦域のガダルカナルからグアム島を転戦し、沖縄で終戦を迎えた。大切に保管していた父の戦友の写真をもとに取材を始め、その後に沖縄も訪れている。
 もしかしたら、ガダルカナルでわたしの父と戦ったかも知れない。体験を聞いておくべきだったと思うが、いまや問うすべはない。