「糸と布のドローイング」高橋靖子 展


 白い空間に入ったとたんに浮遊感を憶え、柔らかくやさしい気持ちに包まれた。布と糸がもつマチェリアルは人の暮らしに密着したものなので、すうっと心に入るのだろう。

 作品の一部にポストスタンプが使われていて、それぞれの作品の糸とマッチしている。その色彩の美しさに目を見張る。
 「どうして切手を使っているんですか?」と尋ねると、切手は時間をかけて届くでしょう?それを画面の一部に挟んでそれをイメージしながら縫うの」とのこと。小さな作品を作るのに3ヶ月を要し、今回は10年分の作品だそう。
 10年間!わたしが海外の高所登山に費やした時間である。目に見えない時間がここに作品として存在するのに驚いた。


 いままでわたしは感動を得るためにお金を使おう、とコンサートや作品展、旅や山にお金を費やしてきた。何も形に残らないものは潔いと思っていた。
 しかし、こんな時間の使い方、存在のしかたもあるということを思い知らされた。作品の前でわたしの足は釘付けになった。膨大な時間をさまざまな色糸で小さな布に閉じ込めた作品は圧巻である。


6月30日まで 12:00~6:00pm
ギャラリー「Retara」
中央区北1条西28丁目2−35
tel 621-5600