遭難

 
 お正月休みの山の遭難は日本だけではない。
日曜日、フランスのテレビ局が遭難救助のドキュメントを放映していた。「あれ?どこかで見たことがある」とふと仕事の手を止めた。イタリアとの国境近くに位置するシャモニのレスキュー隊だ。モンブランに登ったことがあり、おおよその地形は知っていた。


 シャモニのヘリコプターのレスキュー隊はクールな山男ばかりで、「オ〜、かっこいい!」と授業の準備を押しのけてテレビの前に陣取った。スイスアルプスの遭難現場は雪崩からロッククライミングの滑落、スキー場の転倒骨折、アイスフォールへの滑落の救助までと幅広い。通報があると何処へでも飛んで行く。


 わたしは彼らの装備をチェックしていた。エベレストでフランス隊やイタリア隊がいい装備を身につけていたから、最近はどんな装備なんだろうと気になった。救助する方もされる方も装備はすばらしい。
 そして、ヘリ操縦の技術に息を呑む。垂直の岩場のクライマーを救助するレスキュー隊は恐ろしくないのだろうか、するするとワイヤーを伝って現場に降り、安全ベルトで怪我人を確保し抱えるようにしてヘリの中に入れる。


 最悪は雪崩に埋まった登山者を探すレスキュー隊だ。一列に並び、ゾンデ棒を雪の中に刺しながら遺体を探す。訓練された犬とともに、遺体を見つけ出したが、掘り起こされた人たちは人形のように凍っていた。遺体は9体。
 また山の稜線で遭難者を見つけた。すでにボティは雪に埋まっていた。低体温症で動けなくなった登山者だろうか。掘り起こしたがすでに死んでいた。


 山岳会に在籍していたとき、毎年11月に雪山訓練をしていた。レスキュー隊と同じようなことをするのだ。ビーコン(発信器)とゾンデ棒、スコップは冬山の絶対必要装備だ。埋まったら、数十分で意識はなくなるそうだ。
 ピーコンは遺体発見器と呼んでいた。遭難すると警察と山仲間が救助に向うが、何週間も続けて捜査はできない。たいてい3日くらいで打ち切りとなり、春の雪解けをまって遺体が発見される。もし、死んだとしても春まで雪に埋もれていたくない。はやく見けてもらうために必ず身につけていた。


 それにしても、おそろしいクレパスの中はどうなってんだろう、とベッドの上で枕を抱きしめ緊張してみていた。クレパスに中の救助は危険をきわめる。幸い奥深くではなかったのでスキー客は助かった。ハーネス(安全ベルト)とETC(懸垂下降の道具)を付けていたので救助がスムーズだったと思う。顔が真っ白で凍死寸前だった。
「オ〜!おそろしや」また山に行き出したばかりなのに、クレパスにだけは落ちたくない。緊張した2時間だった。