「きりぎりすの山登り」 金子みすゞ

       
       「きりぎりすの山登り」 — 金子みすゞ


     きりぎっちょん、山のぼり、
     朝からとうから、山のぼり。
        ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ


     山は朝日だ、野は朝露だ、
     とても跳ねるぞ、元気だぞ。
        ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ


     あの山、てっぺん、秋の空、
     つめたく触るぞ、この髭に。
        ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ


     一跳ね、跳ねれば、昨夜見た、
     お星のとこへも、行かれるぞ。
        ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ


     お日さま、遠いぞ、さァむいぞ、
     あの山、この山、まだとおい。
        ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ


     見たよなこの花、白桔梗、
     昨夜のお宿だ、おうや、おや
        ヤ、ドッコイ、つかれた。つかれた、ナ。


     山は月夜だ、野は夜露、
     霧でものんで、寝ようかな。
        アーア、アーア、あくびだ、ねむたいな、ナ。



 リズミカルでまるで歌っているようだ。金子みすゞはこの童謡を最後に26歳で山の向こうへ消えた。
山にいるときは真摯な気持ちになるが、日常にもどるとその気持ちを忘れてしまう。