殺人事件

 高校一年生の女生徒が殺された、と言う。
夕暮れ時買い物に出たら、コンビニで中国人のテアに会った。自転車でアナをバス停まで送りに来たらしい。
「マキ、待っていて。一緒に帰ろう!」と怖がるので「どうした?」と聞いたら、昨夜8時ごろ、この田舎町のカウオンで、隣町のクチナライの学校に通っていた生徒がカウオンに戻る途中でレイプされて殺されたという。


 クチナライからカウオンまでは10キロあまりあり、人気はなくあたりは真っ暗闇だ。昼はライスフィールドのなかの快適な道だが、夜は恐い。交通手段はバイクタクシーとトクトクしかないので、暗くなってからクチナライに着くと「この運転手は信用できるだろうか」と不安になる。「身ぐるみ剥がされて田んぼに捨てられたら、どうしょう?」と思う。
 いつもバックの中の財布と携帯を握りしめ、「脅かされたら財布をあげよう」とはらはらしながらバイクに乗っている。(旅先ではいつも財布は二つ持っている)


 確かに、田舎でも安全とは言えない。昼間なのに、お向かいにある市立学校の前でラリッている若者たちを見かけたし、バスの運転手が眠気覚ましにドラックを使うという話も耳に挟んでいる。夜、自転車に乗っていると犬が追いかけてきて、咬まれたくないし狂犬病も恐ろしい。
 日本は平和で安全な国だ。事件があっても検挙率も高い。たいていの国は都合の悪いことは口をつぐんでおしまい、事件は迷宮入りとなる。


 テアと「こんな小さな町でも殺人事件が起こるんだ」と驚いている。タイの高校一年生は幼くてまだ子供だ。ご両親の嘆きはいかばかりかと思う。かわいそうに........。




photo by Teru