続々「In to thin air」エベレスト遭難


 標高8000mの世界で歩けなくなることは死を意味する。頂点は折り返し地点に過ぎず、下山はさらに危険であり思考力がなくなり、体力をさらに消耗する。

 下山時、Mountain Madness(USA)のガイド、Beidlemanが難波康子さんに会ったとき、彼女は消耗しきっていた。彼女はBeidlemanの腕に掴まって歩いていたが、しばらく経つと力が入らず離れてしまった。
 帰国後、Beidlemanは彼女のことを回想する。
『But I can’t help thinking about Yasuko,』『She was so little. I can still feel her finges sliding across my biceps, and then letting go. I never even turned to look back.』


 死者として残されたベックは、翌朝、自力でC4へ下山し、皆騒然となった。亡霊かと思ったのだ。アイスフォールをどうやって降ろすかが問題になった。幸い、ヘリコプターがアイスフォールを越えた地点までフライトし、ベックは無事にカトマンズの病院に運ばれた。(酸素がないとヘリは飛べないので危険が伴うそうだ)
 凍傷で右腕を肘から半分切断し、左手の指はすべて無くなった。鼻も失い額と耳の組織を移植して形成した。彼はメデアに対してノーコメントで誰をもとがめることなく平穏に暮らしているという。——著書「死者として残されて」


 問題点はなんだろう、と思いながら読んでいた。生き残るにはどういう選択が必要だったのだろうか。
気になったのは、みんなバラバラに行動していること。個々のクライアントをサポートする体制ができていないこと。よく腰をおろして休んでいること。著者のジャーナリストでもある、ジョン・クラカワーが高所でスーパーマンのようにクライアントのサポートをしていることだ。

 2004年、チベットサイドのハイキャンプでわたしは足し算が出来ても引き算ができなくなった。酸素がないと思考力が低下する。8000mでは無酸素登頂のクライマーが亡霊のように彷徨っていた。2、3歩行っては立ち止まり、ふらふらと寄りどころなく羽毛服が風に遊ばれているようだった。酸素を使っての登頂は酸素が無くなった時点でそのまま動けなくなる。


 エベレストで死ぬのは悪天候疲労、酸素トラブルだと言われている。これら三つ全部に襲われた最悪の公募登山隊だった。著者はストームが2時間遅かったら、全員無事にC4に辿り着き、1時間早かったら、自分も含めて18〜20人が死んだろうと述べている。結局12人が遭難死亡し、そのうちの6人がロブのクライアントだった。登頂を果たしたのは、ガイドのマイクと著者のジョンだけだ。


 はあ、読み応え(と、いうか辞書の引き応え)のある本でした。遭難者家族の自分への批判をそのまま載せていて、アメリカ人らしいと思いましたね。エベレスト登山のエージェントのアンバブさんやシェルパペンパ、パサンタマングの名前や南極登山のときの会社、アルパインアセンツの名前も見つけて懐かしく思いました。


 これにて終了。