空を飛ぶ夢

 しばし、空を飛ぶ夢を見ない。
高所登山を始めたのは空に近いからだ。エベレストに登ろうと思ったのも、宇宙にもっとも近い空間に立ってみたいと憧れたから。
 高いところに立つと気分が高揚し、そこから飛べそうな気がするのだ。白い峰々と氷河を下に見ながら空中遊泳するのはすてきな気分だろうね。

 毎日の授業に追われ精神的に余裕がないからか、空を飛ぶ夢を見ない。見るのはステップを踏み外す夢ばかりで、なんとも冴えない今日この頃......。
 新たに増えた学校提出の出席、成績簿の雑用とうわさ好きなフィリピン教師が振りまくゴシップやらでちょっとマイナーな気分。


 長年していた考古学の整理作業は、パートタイマーの主婦が多い職場だった。お茶タイムはおしゃべりに花が咲く。井戸端会議を険悪していたわたしは新聞部と公言し、紙面を大きく広げておしゃべりをガードし、仕事中はイヤホーンをしてNHK英会話を聞いていた。
 子供達が巣立ってから突然山ン婆に変身した。高い山しか頭になかったので、海外登山の資金稼ぎの内職に忙しかった。すると、いろいろと詮索されていた井戸端会議が気にならなくなった。なにか目標があると些細なことは気にならず、生き易いかもしれない。


 いまも同じようなもので、学校が提示を求める出席&成績簿は、砂を移動してまた元に戻すような作業で精神的に良くないが、山があるだけで救われる。
 あと少しで山に行ける。山、山、山、また山に戻ってしまった…。やれやれ。