事始め

 派遣元のヤイムが親善大使としてタイの生徒を札幌の高校に招待してくれることになった。
生徒は日本に行きたいので大喜びだ。しかし、自己負担金もあるし、現在の授業内容は週1回の選択科目であり、試験を受けるにはレベルが低すぎるので、そのための受験勉強をしなければならない。しかも、タイの学校は行事が多く月に1、2度は授業がつぶれる。勉強するにしても生徒もまた根気がないときている。

 他にも問題があり、ヤイムが提示する試験範囲や選択した3校のうちの2校の生徒を招待する条件など、タイの日本語教育の現状からするとなかなか厳しいものがある。細かな交渉はともかく、試験まで時間がないので教科書のコピーを頼みにコピーショップへ行った。
 すると、コピー代がバカ高い。本を買ったほうが早いが田舎では教科書が手に入らない。「これはわたしのためじゃないの、タイの生徒のためなんだから、お願い!」と値引き交渉を始めた。タイ語と英語をごちゃまぜにして大奮闘し、ようやく交渉が成立した。わたしのいい加減なタイ語にご近所のおじさん、おばさんが笑っている。ふう〜、暑っ!



 教室に戻り、生徒たちと特別クラスのための打ち合わせをした。
「ほんとに日本に行きたいの?勉強たいへんだよ、ほうら、こんなに厚い本なんだよ。普通、週3時間勉強して、6ヶ月かかるところを、4ヶ月で勉強しなければならないよ」と口をすっぱくして言う。
 いまは、みんな首を縦に振って「ちゃい、ちゃいかー(OK)」といっているけど、85%正解を求める試験にパスしても、3校のうちの2校の生徒が選ばれるので、協議の結果ここの生徒が選ばなかった場合のことを考えると、わたしの方が泣いてしまいそうだ。生徒のきらきらした瞳を失わせたくない。なんと残酷な、とも思う。

 しかし、これはひとつのチャレンジでもあるので、生徒と一緒にやるだけのことはやってみよう、と思う。Do my best! で........。