きのこハウス

 元建築家の日本語教師が、勤務先の英語の先生に「きのこハウス」の設計を頼まれたそうだ。
「へえ〜、おもしろそうじゃん」と無責任なことを言ったけど、なんだか心配になって電話した。
「あのさ、おもしろそう!なんて言ったけど大変じゃん?」
「そうなんだ、建材が思うように見つからなくて、落ち込んでいるよ」とのこと。


 ———そうでしょうよ。田舎の建築様式を見ていると危ないのなんのって、コンクリートの中に曲がった鉄骨がぱらぱらと入っているだけだもの。学校の向いの銀行は作業員がサボっているのか半年も出来上がらなかった。ただの四角い箱の建物なのによ。
 それを丸い屋根の「きのこのハウス」を建てるなんて至難のわざでしょう。タイの建築技術では大変でしょうねぇ、と同情する。

 聞くと、英語の先生はゴム園のなかにきのこ屋根のゲストハウスを建てたいんだそうだ。将来は、2棟、3棟と増やしたいそうだ。二階建てなので5、6メートルになるとか。
「えっ、それじゃあ、サイロみたいなもんじゃん。サイロの屋根をきのこ形にすればいいんじゃないの?」とまたもや無責任なことを言う。
 友人の構想では、まがった鉄骨で屋根を組み、網を張った上に軽量コンクリートできのこの形を作る、というものだった。
「それじゃ、地震がきたら屋根が落ちるでしょう? それにタイは雨と土に塩分が多いから網は腐るよ。藁葺きにしな、藁葺き!タイは世界一の米の生産国なんだから藁はいくらでもあるよ」またまた勝手な素人意見を押し付ける。


 ああでもない、こうでもないと思いつくままのアイデアを押し付けているうちに落ち込んだ気分もすっかり晴れたらしく、げらげらと笑っていた。あはははは、とわたしも笑ってしまいましたよ。