訃報 吉田秀和

 朝日新聞のサイトで吉田秀和さんの訃報を知った。
NHK・FMのクラシック番組、「音楽の愉しみ」のファンだった。その番組も時代の流れには添えず中止になってしまい、街の灯が消えたような寂しい思いをした。彼の声を聞いたのはそのときが最後で、「音楽と芸術はどんな時代にあっても必要...」とぼそぼそと静かに語っていた。自分に正直な人だと思った。

 あたりまえだけど、人が亡くなると声も聞くことはないし、もう新しい活字を手にすることもできない。高齢だったのだから、いつ亡くなってもおかしくはないのだけれど、好きな人はいつまでも生きていてくれるような気がしていた。
 吉田秀和さんの全集が出版されたことを知って、帰国したら読書三昧の毎日にしよう、と彼の全集を開くのを愉しみにしていた。暑いタイにいてもなんだか胸のあたりがすうすうして寒い。もったいない人が亡くなったと心から思う。ご冥福を祈る。