女性の首相誕生

 タイの首相がタクシンの妹、インラッテ氏に決まった。
インラッテ氏はタイの大学を卒業後、アメリカに留学し博士課程を終了した秀才とか。そして、たいそう美貌な40代。離婚したご主人との間にお子さんがいらっしゃるそうだ。
 ここ、東北部ではタクシン派が多い。選挙の日曜日も穏やかに過ぎて、初めての女性の首相誕生に教師たちの顔は明るい。赤シャツ派と黄シャツ派の対立がなくなり、橙色になるようインラッテ氏に期待する。

以下 朝日新聞天声人語 7/5日付け

権力の座から滑り落ちた政治家はときに、味わい深い言葉を残す。5年前、タイの首相だったタクシン氏は訪米中にクーデターで失脚した。「私は首相としてここに来たが、無職の男として去ることになった」は、ニューヨークを去る際のひと言だ▼現在は放逐された状態で異国暮らしに甘んじている。そんな兄の無念を、妹が晴らしたことになろう。タイで総選挙があり、氏の妹インラック氏を首相候補にした野党が過半数を取った。初の女性首相は「兄の操(あやつ)り人形」の批判を跳ね返すことができようか▼赤シャツ派と黄シャツ派に割れての騒乱は記憶に新しい。国際会議の妨害。空港の占拠。治安部隊との流血衝突では日本人カメラマンが落命した。赤の親(しん)タクシンと黄の反タクシンによる国内二分は今も、「ほほえみの国」を揺るがし続ける▼タクシン氏は汚職で有罪判決を受けている。だが億万長者ながら貧者に手厚かった。人気は根強く嫌悪も激しい。妹は「国民和解」を掲げるが、赤と黄の溝は深い。オレンジ色に溶けあうのは容易ではない▼かつての小欄が、タイの僧は地獄と極楽をこう説明するそうだと書いていた。どちらにもご馳走(ちそう)があって、腕より長い箸(はし)が置いてある。地獄では自分で食べようとするが、箸が長すぎて口に入らず、争いだけで終わってしまう▼極楽では、自分の箸で人の口に入れてあげる。互いにそうするので誰でもたっぷり食べられる、と。融和への知恵と手腕を、新首相に期待できるかどうか。