ねむの木

 五月に赴任したら、宿舎の周りの樹々が切り倒されて汚れた壁がまる見えだ。あんなにうっそうと茂っていたのにもったないことをする。樹々の梢は西日を遮り、部屋を涼しくしてくれていたのに。
 がっかりして、外に出たら何か回りの様子が違うので、あれ?と思った。何かがたりない。宿舎の前の道に直径1メートルもある「ねむの木」の大木があった。それがない。
 下を見ると、目の前に大きな切り株があったので驚いた。チエンソーの痕が痛々しい白い切り株には焼けこげがありタールが塗られていた。芽が出ないように、とのことだろうか。これだけ大きくなるのには数十年もかかったろうに。空を覆うように茂っていた大木があっさりと消えてしまった。
 夜になると葉を閉じて眠る「ねむの木」はもうない。自分の身を切られたようにひりひりした。


         「日立の木」
この木なんの木、気になる木、名前も知らない木ですから
名前の知らない木になるでしょう

この木なんの木、気になる木、みたこともない木ですから
みたこともない花がさくでしょう

この木なんの木、気になる木、みんなが集まる木ですから
みんなが集まる実がなるでしょう