おいしそう!

宿舎の回りをにわとりが歩き回っている。
りっぱな鶏冠をもったおんどりが、貧弱なめんどりを「こけっこ〜!」とかすれた声を上げながら追い回している。
「おいしそう!」とインが言った。
「インなら出来るよ、わたしが捕まえるから料理して」と言う。
「誰のか分からないよ」と言うので、「誰が食べたかも分かんないよ」と笑う。
高校生のとき、母方の祖母がにわとりを絞めるのを見たことがある。卵を産まなくなったにわとりは首をはねられ、逆さ吊りにされた。残酷!と目を覆ったが、食べる段になったら最高においしくて、みな平らげてしまった。
インが市場でにわとりを丸ごと買うのを見ていて、「中国の女の子は逞しいな」と思った。下の階から「ばんばん!」と包丁を叩きつける音が聞こえてきて、鶏を解体しているんだな、と想像した。骨はスープに、肉は用途別に分けてフリーザーに保存している。鶏ガラのスープで作ったインの「おじゃ」は最高においしい。けれど、わたしには「ばんばん!」が出来ない。
北海道生まれのわたしが鮭を丸ごと買い、捌くのと同じ感覚かなあ。
 7summit HP: http://web.me.com/dreamispower/index/Welcome.html