はつ恋


 今日は中間試験の最終日で、テストから開放された生徒たちが中庭や野外のトイレ近くに集まり楽しそうだ。中庭を通ると、あちこちで高校生のカップルが楽しそうにしている。たいてい男の子が好きな女の子のまわりをうろうろしていて、なんとも微笑ましく見ている。

 イタリア人のファビオも高校生のとき、日本人の女性と恋に落ちた。今考えると、なんて幼い恋だったのだろうと思う。
8年前、フェルナンドの結婚式のため、イタリアのベニス行きのチケットを買った。夜中に着いたので、飛行機の中で知り合った日本人の女性と宿をシェアすることになった。翌朝、彼女に「恋人に会いにいくのだけど、母親が猛反対しているので、パドバまで一緒に行ってくれないか」と頼まれた。結婚式までは10日ほどあるし、観光ついでに彼女に付いて行く事にした。
 パドバまで列車で移動し、宿を取ってほどなくしてファビオがやって来た。ほっそりした華奢な男の子で、あまりの幼さに驚いた。この子が彼女に恋をしたの?と思ってしまった。
 ファビオは修学旅行でシシリア島に行った時、一人旅していたと彼女と出会ったそうで、公園のベンチに座っていた彼女に時間を聞くと、腕をひねって手首の内側の文字盤を見たしぐさがすごくセクシーだったと言う。イタリアの子供は目のつけどころが違う。


 母親にビーチに行くと嘘をついて家を出たのだけれど結局バレてしまい、母親がホテルまで迎えに来た。そして、イタリアの肝っ玉かあさんは「ホテルに泊まるのなら家へ来なさい」と言い、付録の私も一緒に付いて行く事になった。
 郊外の広い敷地にヤギや羊、豚、にわとりを飼っていて、食料はほぼ自家製だと言う。ベーコンも卵も最高においしいし、おばあさんの家や親戚の家に連れて行かれてお茶や夕食をごちそうになり、付録で付いて来て良かったと思った。
 肝っ玉かあさんは、彼女が10歳も年上なので「あんたが大学出るころは、彼女はおばあさんだよ」と言っても、恋に落ちたファビオにはわからない。「僕のアラレちゃん」と彼女に張り付いている。母親監視と付録付きの恋人たちは、回りの心配をよそに幸せそうで、「僕は、大学へ行かないで働いてアラレちゃんと暮らす」と言い出す始末。
 どうなるんだろう、と思いながらも付録の旅を終え、私はベニス観光にいくことにした。見送りに来たファビオが、お礼にランチをごちそうすると言う。「僕がごちそうできるのはハンバーガーだけど」と紳士的な口調で言うのに驚いた。
 子供のときから大人と対等につき合えるのだ。「さようなら、ごちそうさま」と小さな紳士と別れたけれど、その後ほどなくして二人は別れてしまった。アラレちゃんに新しいイタリア人の恋人が出来たのだ。


 ファビオから「死にたいくらい、悲しい」とメールが来て「月と六ペンス」を読みなさいと返信した。その後、彼はパドバ大学を卒業し、日本に何度か留学している。「日本でなにしているの?」と聞いたら「ロボットの研究」だと言う。「恋人できた?」と聞くと「大学の研究が忙しいので帰ったら寝るだけ」と言う。日本語も上手になった。
 今ごろは肝っ玉かあさんの家かな。考古学好きのファビオの妹も結婚したろうね。またパドバを訪ねてみたい。


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