「垂直の記録」 山野井泰史著

山野井さんがギャチュン・カンから生還のため、手と足の指を10本失ったとき、この人は山で死ぬ事はないのだとほっとした。しかし、そうではない事にすぐ気がついた。彼は生まれついてのクライマーであり登攀を止めることはなかった。「鮫が泳ぐのを止めたら死んでしまうように、僕にはクライミング必要なのだ」といい、指を無くしてからもトレーニングを重ね、中国四川省ポタラ(5428m)北壁単独登攀やグリーンンランドのオルカ(1200m、5・2)の大壁を初登している。
山野井さんご夫婦に何度かお会いしたことがあるが、とても素朴な人柄でいつもにこにこしている。うそ、はったりがまるでなく淡々として登攀を話す。目が見えなくなり、手探りで岩のホールドを探しながら降りたのだという。どの指を無くしても良いだろうと考え、左手の小指から使ったのだと教えてくれた。その結果、左手の小指と人差し指、右手は小指と人差し指と中指を、右足の指は全部失った。妙子さんは失った指がさらに短くなり、なにもなくなった。しかし、指のない手で包丁も握れば、車の運転もするという。山仲間と一緒に山野井さんと登別の海岸でフリークライミングをした事があったが、指を失ってもクライミングは上手かった。帰りのフェリーに乗る時、障害手帳があると運賃が半額になると笑っていた。クライマーが命でもある手足の指をほとんど失ったと言うのに、なんという人だろうとほんとうに驚いた。
先日、山野井さんのHPで「垂直の記録」のハードカバーが文庫本になった事を知った。出版されて直ぐに買い求めて読んだ本で、もう一度読みたかったのでタイに来る山友達に頼んだ。
章の間に最近のエッセイが挟んであり、いくぶん柔らかい感じになった。それにしてもすごい登攀を続けてきたものだと改めて思う。これからも彼の努力と登攀は続いて行くだろうと確信する。

http://www.youtube.com/v/eY_o7bWaHgc?
山野井泰史HP http://www.evernew.co.jp/outdoor/yasushi/yasushi1.htm
7summit HP: http://web.me.com/dreamispower/index/Welcome.html