生と死

海に捨てられた子猫が波に呑まれるのを見たとき、始めて生と死の残酷さを知った。
子供のころ、何処の家でも家猫がたくさん子を産むと目の開かないうちは魂がないと海に放った。うちの猫は二匹しか産まなくて良かったと思っていた。しかし、祖母が私を悲しませないように二匹だけ残してこっそり捨てに行っていたことを知った。実は毎年六匹の子を産んでいたのだ。
ある時、四匹の子猫の貰い手が見つからず姉妹で海辺に捨てに行った。生きた子猫を海になんぞに放れず、浜のゴミ捨て場はカラスに突付かれる。子猫がみぃみぃ鳴くダンボールを抱えて浜辺を歩き回った。しかし捨てる決心はつかず、風の当たらない岩陰に隠して餌を運ぶことにした。その夜、どうしているだろうと気になって寝付かれなかった。朝目覚めて顔も洗わず海辺へ急いだ。子猫は波に濡れて死んでいた。

どんな強い意思も命の終わりを止めることはできない。自ら命を絶った友人、滑落して亡くなった山仲間、癌に侵されても最後まで生きる望みを失わなかった友人、報われなかった仕事、理解されなかった言葉、離婚や失恋と人生の折々で呆然と立ちつくした。
その度に、海辺で波に消された空間を見つめていたことと重なった。スカートを広げて石を運び続けた夏の夕暮れ、そしてためらわずまた波打ち際に駆け下りていった少女の頃をいとしいと思う。
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