海辺で

砂浜に家の見取り図を作る遊びに夢中になったことがある。
手のひら大の石を集め砂に立て並べ大きな正方形を作る。その中を玄関、茶の間、仏間、台所、トイレと仕切っていく。田の字型の間取りは自分が住んでいる家である。
日を重ねるごとに懲りだした。玄関前に踏み石を並べ、裏庭の縁側には流木を引きずってきて植木の代わりにし、そのまわりの砂を指で掃き和風庭園にした。茶の間に大きな石を転がして運びテーブルと椅子を設えた。広げたスカートに玉砂利を入れて運び、玄関やトイレに敷き詰めた。床の間には選り分けた白い小石を敷いた。   
学校から戻ると海辺に飛んで行き石の見取り図作りは続いた。夏の強い陽差しが海に傾いても砂浜はまだ熱かった。素足のまま波打ち際を遠くまで歩いて、これと思う玉砂利を探した。足元で砕ける波の響きは耳に心地よく、引き波が足の裏でプチピチとサイダーの泡のように弾けた。太陽は惜しげもなく金色のかけらを海に散らし、並んでわたしを見ていた。さんざめく潮騒に耳を傾ける鴎の群れ、時はゆるやかに巡り波の演奏は果てしなく遠い未来へと続いていた。

ある日、いつものように海辺へ行くと石の見取り図は跡形もなく消えていた。波に洗われてしまったのだ。目の前にあるのは、まっさらな新しい砂浜と白い水平線だけだった。体の力が抜けて胸がすっと軽くなり、コトンと音を立てて足元に落ちた。戻ることのない積み重ねた時間と何もない空間に見とれていた。幾度、同じ風景に出会ったことだろう。口では言えない喪失感を海辺で憶えた。
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