ねずみ

エベレストに登る前、ネパール側エベレストBCに下見に行った事がある。
どんづまりの村がゴラクシェルプで、そこからエベレストがよく見えるカラパタールに登ることができる。エベレストの登山者が高所順応をしている5000mの丘である。前の晩にその村の簡易宿に泊まった。土間は昨夜降った雪が溶けてしみ込みどろんこだった。蚕棚のような寝床にエアマットと自分のシェラフを広げて寝場所を作った。宿は満員で両隣は図体のでかい外国人の男だった。彼らは通路に頭を向けたので、わたしは壁に頭をむけて寝る事にした。登山のとき、テントの中は狭いので暗黙のルールで互い違いに寝ていたからだ。それにしても、みんな通路側を頭にしているなあ、と思いながら寝た。
すると、夜中、私の顔の上をぺたぺたと通る、小さな手の感触がした。はっとして目が覚めた。いったいなに?こんどは頭の上をなにかが横切る風を感じた。ねずみ? そうだねずみだ。どおりでみんな通路側に頭を向けて寝ていたんだ。しらなんだ。
翌朝、カラパタールに登り、素晴らしいしいエベレストを眺める事が出来た。エベレストは黒い三角の岩峰で裾野に青いクレパスの襞をまとっている。ここからの写真は有名で、世界一の頂がよく雑誌などに登場する。感動を胸に外国人登山者と一緒に写真に治まった。