ライラックを描く


 街中がライラックの香りに包まれる、この季節が好きだ。
油彩教室のモチーフがライラックで、甘い香りがアトリエにたち込めた。


「わあ〜、素敵な匂い!これ描いてみたかったんだ」とモチーフの前に座ったのはいいが、なんとも難しい。講師が八木信子先生のライラックの絵を見せてくれて、「こんな風に手前と奥を描き分けて....」と指導してくれたが上手くいかない。花が上手くいったと思ったら、花瓶とのバランスがとれない。


 すると、「こんな風にね」と背景から花瓶をかたどってくれた。背景は左右の色を違えると空気感が出るとのこと。ーーーなるほど....。
 素敵な花瓶に気を良くして、自宅に戻りキャンバスを取り出したら、花瓶のところだけ絵の具が取れてしまっていた。
「ああ、なんということ!花瓶のおかげで素敵な絵になったというのに....」


 こうなったら、根性だ。翌日、一日かけて、ああでもないこうでもないと花瓶を描いていた。そして、絵の具が乾く間に郊外の友人宅からいただいた濃いライラックも描くことにした。機織り機の椅子にモチーフを置いて、機筬に白いカーテンをかけた。ーーーおお、なかなかいいじゃん!


 かくして、わたしの機織り機はテント干し場から、モチーフ置き場に変わってしまった。