「潜在光景」松本清張


 久しぶりに読んだ推理小説。それが、深とした怖さに心がざわめく。

主人公は同じバス路線で昔のクラスメートを見かけ、もしかして?と声をかける。それをきっかけに彼女と付き合うようになり、妻帯者でありながら、あしげく通うようになる。彼女には就学前の男の子がいて、なんとか手懐けようとするのだが平行線のままだ。
 通ううちに子どもは外から閂をかけたり、母親から、これは食べてはいけないと言われた猫いらずの入った饅頭を皿にのせたりする。
 
 ある夜のこと。子どもと彼女の帰りを待っていたとき、待ちくたびれて寝入ってしまった。尿意を催し手洗いに立って戻ると、暗がりの中にナタを持った子どもが立っている。彼はただならぬ殺意を感じ子どもに飛びかかった。
 そこに母親が帰宅し、気を失った子どもを見て医者を呼ぶ。医者から通報され取り調べを受けることになるが、警察は子どもが殺意をもつことをなんとしても信用してくれない。それで、ーーーー俺がそうだったのだ、と叫んでしまう。


 主人公は同じ年頃のとき、父の死後、親しく出入りしていた叔父に懐かなかった。
釣りだけは海が見たいために度々付いて行って、あるとき船を繋ぐための縄を故意に引き、叔父を堤防から落としのだ。事故として処理され疑われることはなかった。



 これは松本清張の体験なのではないか?というくらいリアルで、怖い。ーーー松本清張 短編集「共犯者」より。
昨日の新聞で、釣り人が堤防から次々に落とされたというニュースを見た。少年の仕業だそう。