語彙

 

 もうすぐ、4歳になるお隣りのおちびちゃん。3歳までフィリピンで育ったので母語はおばあちゃんのタガログ語だった。このところ急に英語の語彙が増えて、一日中しゃべっている。


 最初、動詞と名詞だけだったが、いまは過去形も現在進行形も使える。そして、冠詞だって間違わない。父親そっくりな口調なので、「リトル・チャールズ」と呼んだら、チャールズが「小さい クマです」と日本語で言って、おかしかった。ほんとうにやんちゃなクマさんで、かたときも目が離せない。


 お隣さんはとても仲のいいご夫婦で、いつもどこでも一緒に行く。
チャールズが自分の時間が欲しくて、パソコン持参でホテルのカフェに行ったり、ジョギングしに行くとミックは不満そう。
「子供の面倒を見たがらないのよ」とわたしに愚痴る。


 チャールズはミックが倹約、倹約と言いながら、甘いケーキを買ったり、化粧品を買ったりしていると、「ミックには内緒だからね、しかじか、かくかく.......」と声を落としてささやく。


 わたしは二人の間を取り持って、角が立たないようなことを言っているが、実は英語がわかってない。
ミックは姉妹よりもわたしのほうが話しやすいと言って、なんでも話してくれる。わたしはただ聞いているだけ。
 しかし、ほんとは仲がいい。フィリピン人は家族の絆がとても強いので、うらやましく思っている。チャールズもアメリカの親は成人した息子や娘には援助しない、と言っているが、彼の父親は息子が帰国するのを首を長くして待っている。


 おちびちゃんが「Makiもいっしょにアメリカへ行くんだよね、マミ〜!」と言うのを聞いて、うるっとなった。