愛、アムール


 ドイツのテレビ局が放映しているユーロマックスで、この映画がカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞したことを知った。毎週末に話題の映画の紹介があって楽しみにしていた。タイの田舎町には映画館がなく、大きな街でもポビラーな映画しかかかっていないので、帰国したそうそうに映画館に飛んで行った。


 老いと死をテーマにした作品なので重たい。カメラはどっしりとしたパリのアパルトマンで暮らす音楽家の老夫婦をじっくりと追って行く。画面も暗く息がつまる。空が見えたらいいのに、と思いながら観てたら、鳩が一羽室内に迷い込むシーンがあり、救われた。
 死に向う妻を夫が介護し、弱ってゆく姿を娘に見せまいとする。彼女の美しさと尊厳を守ろうとするのは、深い愛ゆえのことだろう。淡々としているが静かに胸に迫る。


 ふう、自分のことを考えてしまいましたね。廊下でポスターを見ていたら年輩の男性に
「あの男の人はどうなったの?」と聞かれた。
「ほら、室内を目張りしていたでしょう?」と答える。「そうか、最初のシーンのことか」と頭の回線が繋がった様子。
「どうして、この映画を観に来ましたか?」と尋ねると「同じ年代で、ひとごととは思えないから」とのことだ。ラジオの映画案内で知ったらしい。途中まで映画のことを話しながら歩いた。


 フランスに住んでいたアナの知り合いが、自分の死ぬときを決めて生きたそうな。自分の生は自分のもの、という考えた方は日本人にはないだろうな、と思った。そのときが来たらみんなに別れを告げて、あちらの世界へ旅立つのだ。彼女の子供達は最後まで納得しなかったそうだ。

 

 映画の帰りにデパートに預けていた食器を取りに寄った。気が変わって、2人分買った洋食器を追加して4人分にした。せいぜい元気なうちは、友人や家族を招いて楽しく食事をすることにしよう〜♪