ホストマザー


 カナダのホストマザー、シリアに誕生日メールを送ったが返信がない。
彼女は70代後半、好奇心おう盛なとてもジェントルな女性だ。昨年は娘夫婦から独立して海の見えるアパートメントに移ったと言っていた。
 カナダのビクトリアで2ヶ月間、語学学校に通っていたとき、わたしは彼女と話すのを楽しみにしていた。シリアの日常はボランテアワークと趣味のコーラス、友人の買い物の手伝いと忙しかった。それなのに、わたしの宿題のチェックもしてもらっていた。
 あるとき、わたしは自分の誕生日に奮発してかったカシミアのマフラーを無くした。語学学校でコートといっしょに丸めてテーブル置いたのが帰るときに消えていた。すごくショックで、もしわたしのマフラーをしているのを見つけたら引っ張って首絞めちゃうぞ、くらい頭にきてシリアに経緯をつげた。彼女は「見つかったら、あら、わたしのマフラーを探してくれてありがとう!と言うのね」と笑った。負けましたね。
 シリアはいつも正直で正しくて、美しいと思った。ホスピスで末期の患者の話を聴くボランテアもしていて、「人間誰しも、その生きた歴史があるの、それを聴くのはたいせつなことよ」と言った。彼女自身の生きた歴史も波瀾万丈だった。イギリスから移民してきて、大変な時に夫は他の女性に心を移し離婚して、教師をしながら5人の子供を育てた。なのに、話を聞いているとちっとも大変そうには見えない。
 いつも週末にはケーキを焼き、孫たちに囲まれて楽しそうだった。