ギリシャ神話「パキウスとピレモン」の章

 ゼウスとその息子のヘルメスが疲れた旅人として一夜の宿を乞いながら人々の戸口に立つのですが、夜も遅いのでだれもドアを開けてはくれないのです。ところが、茅葺き屋根に住む貧しい老人夫婦が旅人を招き入れます。そのおもてなしをするところに感心してしまいました。
 老夫婦は二人を招き入れ、腰掛けの上に敷物を置いて差し出しました。そのあとおばあさんは火をおこし、食事の支度をします。裏庭から菜っ葉を摘んで塩豚の薫製を入れて蒸し始めます。ブナの木の手洗いボールにお湯をたっぷりと注ぎ勧め、腰掛けの上には海藻入りのクッションを置きました。
 おばあさんは食卓の脚がガタつくので板を挟み平にし、テーブルの上を匂いの良い草でふき清めます。それから、操正しいアテナのオリーブと酢漬けにしたやまぼうしの実を並べます。大根とチーズ、灰の中で固く焼いた卵を、土焼きの皿に並べました。すべての準備が整うと蒸し肉が熱い湯気を出して現れました。そして、古くはないけどお酒を木のコップを添えて勧めました。デザートはリンゴと野生の蜂蜜です。
 どうでしょう、このおもてなし。大根の白とオリーブの緑、木の実の赤とチーズと卵の黄色、そしてピンク色に蒸し上がったお肉。小さくて固いリンゴに野生の蜂蜜なんて、オリーブの花の蜂蜜だろうか?とヨダレが出そうになりました。なんだかとても素敵で美味しそうでしょう?ちょっといっしょにテーブルに座りたくなりました。それに、そのころからお酒は古いものが上等だったのですね。どんな味でしょう?きっと、潮風に吹かれた濃いドライな味のぶどうは、ちょっと石灰のような匂いがするかしらね。紺碧のエーゲ海に浮かぶギリシャの白い家々がへばりつく絶壁の島々を思い出しました。

 二人の望みは、その時が来たら一緒に旅立つことなんだけれど、二人の神がそれを叶えてあげるんだよね。なんと幸福な人生だろう、と思いましたよ。