順応力

 タイで日本語教師として赴任し、驚くのは住環境だと思う。タイ式トイレは和式トイレを高くしたようなものに足台があるだけで、使用後は側に備え付けた水槽タンクから手桶で水を酌んで流す手動式水洗だ。バスルームにシャワーはなく、同じ水槽から水を酌んで行水するだけ。キッチンもなく、もちろんガスもない。テーブルもなく、床にゴザを敷いて真ん中に料理を並べ、それを囲んであぐら座りをして手で食べる。夜はベッドではなく、床に薄いマットを敷いて寝る。これは何処ででも見られる一般的なことだ。
 外国人教師はタイ式住環境に馴染めない人が多く、最初に聞くのは、シャワーとエアコンはあるのか、あればシャワーはホットシャワーかどうかが問題になる。外国人教師を雇う学校側でも、ベッドを入れ、トイレを洋式にするなど多少は考慮して整えてくれてはいるが、その学校の経営状態によって違うので赴任してから戸惑う。
 赴任した若者たちの住環境も「部屋に何もないよ。エアコンも洗濯機、シャワー、ベッドもなにもない」と笑っている。「すごいね!よく順応しているね」と驚く。物に囲まれ何不自由なく育った若者たちの適応力に感心した。その上にトッケーやら、チンチョー(ヤモリ類)がちょろちょろと走りまわり、蟻の軍団にせめられ、蚊はもちろん、ノミやらダニに咬まれ痒くていらいらする。「なんで、こんなところに来たんだろう」と思うこともしばしばある。さらに犬がやたらと多く、狂犬病の疑いのあるものもいるので、自転車に乗っていて追いかけられるのが、これまた恐ろしい。
 と、たいへんなことだらけなのに、不思議なことに日々順応していき、トッケーにも蟻にも慣れ、自衛手段を考えながらサバイバル生活をしている。
 何でタイにいるの? 誰もが言うことは、生徒たちがかわいいから、との答。もちろん、わたしもそのひとり。