糸巻

 糸巻きしていて束になった糸がこんがらかった時、手に持った巻玉を一度他の糸にくぐらすと、終わりまで同じ作業をしなければならない。
 今回のサラリーの契約の問題も同じことのような気がする。昨年度に決めた条件を校長の一存で反故にした。そのまま受け入れると、同じことがくりかえされることになる。
 腑に落ちないので、校長に面会を申し込んだら拒否された。外国人担当のチュンポーン先生は、「会う必要がない」と校長に高飛車に言われて小さくなって恐れている。彼に同行してもらうのは無理だろう。「それなら、一人で待ち伏せして会うから問題ないよ」と言った。校長の、というか、権力の言うがままになるのはしゃくにさわる。こんなことがまかり通っていいのか?すると、彼はゴティ先生に通訳してもらうといいと逃れた。
 朝、珍しく校長が出勤したので校長室をノックした。副校長とゴティ先生が一緒だった。
昨年から決められていたサラリーを外国人教師を二人増やしたからとの理由で反故にするのには同意出来ないと主張した。また、私は日本の小冊子にタイの文化についての記事を書いてこの学校を紹介しているし、日本文化とタイの文化の国際交流を担っている、あなたの学校は二度も北海道のテレビに放映されましたよ、と教えた。肝心なのは生徒で、昨年の中学生は日本語を話せるようになったし、それは私の一番の喜びなのだと言った。出来れば、その生徒たちのスキルをアップしたいと思っているので、約束を守ってほしいと頼んだ。日本で教材を買うのはとても高く、昨年の給料はすべて教材と飛行機代に消えたのだと話した。
 彼女は考えているふうで、小冊子のコピーを見て、自分の学校の生徒が紹介されているので嬉しそうだった。「なぜ、私の写真がないのか」と聞くので、「今月の記事のテーマは『女性と仕事』なので、お望みなら校長の写真にしましょう」と大型カメラを構えた。
 気を良くしたのか、昨年と同じサラリーではなく、前期は2000B上乗せし、後期にさらに1000Bアップしてくれることになった。やれやれ。