オーロラ

アラスカでのこと。9月末のぐんと冷え込んだ夜、「こんな夜は9月でもオーロラが見えるんだよ」とキャリーが言った。
コーラスの帰り道だった。漆黒の闇に億万の星の海が広がり、アラスカ杉が星に届きそうに高く、高くそびえる。

わたしは暗闇のなか、急いてロッジにもどり、今夜は3階の「イーグルの部屋」で寝ようと、四方ガラス張りの部屋にふとんを押し上げた。寝ずの番でオーロラが見られるかも、と期待した。
暗闇のベットで、すこしまえの不思議な時間を思い出していた。森の奥にある、小さな小屋からもれるオレンジ色の灯りに導かれてドアを開けた。小さな部屋にマキストーブとろうそくの灯り。女たちが環になり、ジンベを叩きながらハミングを重ねていく。祈りに似た歌声は、静かに森の闇に吸い込まれていく。太古の昔から、このようにして女たちは日々の暮らしの合間に、ともに歌を歌っていたのだろうか。ふぃにそんな思いにかられた。
今、わたしの目の前に広がるのはアラスカ杉の樹海。黒々と宙を突き、きらきらと輝く星くずをまとう。


闇に包まれているわたしは、とてもちっぽけで、よりどころがない。


きらきらきらとまばたく星屑は、ガラスの破片のように降りそそいで、わたしのこころにちりりと刺さる。
解放された闇は美しく、どこまでも無限に広がり、わたしの存在そのものが消えてしまいそうに恐ろしかった。
ほんとうにオーロラがあらわれたりしたら、ひとりで見るのはこわい。わたしはふとんをはしごから落として、下の部屋に戻った。

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Photo by Ueki