勧誘

グラセーラの弟、デビットが帰る頃になって会いに来た。彼は大学の講師でギターリストでもある。なぜ、わたしに興味をもつのだろうといぶかしく思っていたら、「イケダダイサクを知っているか」と聞かれた。
「どちらの池田さん?」と聞きかえすと、宗教団体の会長だった。彼はその教義に心頭し勉強を始めたところだと言う。
日曜日、ぜひ会わせたい人がいると誘いに来た。招かれたのは音楽仲間の家で閑静な住宅地にあるモダンな家だった。物静かなご夫婦はこの宗教を知って心に平和が戻ったと言った。東京にある本部に勉強をしに行きたいと思っているとのこと。カトリックの国で、どうして仏教の信仰を得ることができたのかと聞くと、すばらしい日本人の友人から教えられたのだと言った。
メキシコで日本の宗教の説明を受けるとは思ってもみなかった。それもなまりのない英語で今いかに世界に平和が必要かをとくとくと話される。
そして、別室に案内されて驚いた。立派な仏壇をしつらえた祈りの部屋だった。彼女が「ごぶつだん」とか「ごほんぞん」と言うのを不思議な言葉のように聴いていた。経文を渡され日蓮正宗法華経を唱えることになってしまった。数珠の使い方を教えられ「南無妙法蓮華経、なんみょうほうれんげきょう」と繰り返し唱える。
祈り終ってから、お題目の意味を聞かれてあわてた。知らない。どんな意味なのだろう。子供のころ、お向かいの家が法華宗だったのを思い出したが意味なんてわからない。すると彼女は漢字の意味を英語で説明し始めた。
この宗教団体が、平和、学術、文化、教育活動と海外布教をし、めざましく発展していることを始めて知った。
「あなたも仏教徒でしょ?」とデビットがと聞くので、
「仏教もキリスト教と同じようにいろいろな宗派があって、わたしの家は門徒宗だ」と答えるとぜひそれを説明して欲しいと言う。ああ、説明など出来ない。
南無阿弥陀仏・・なんまいだーぶつ」と祈ると教える。
「要するに、ご本尊が違うのよね」解っただろうか。