夕焼けともだち

 キッチンの小さな窓から藻岩山が見える。札幌の西に位置するこの山は、標高531mでロープウェイやスキー場もあり、多くの市民が季節を問わず散策する場所である。小さな窓は、季節と天候を知らせる額絵でもある。冬は窓枠のなかに、ナイターの灯りがクリスマスツリーのように収まる。お気に入りの風景だ。

 窓にカウンターを作った。ブロックを積み上げガラス板を渡し踏み台をイスにした。腰掛けると目線上に藻岩山が見える。朝はここに座ってコーヒーを飲む。トーストが焼けたら蜂蜜を塗り空を見ながら天候を確かめる。藻岩山が隠れたら三十分後には雨が降る。雲が降りはじめるとあわてて読みかけの新聞を持ち早めに家を出た。
 仕事から戻り、刻々と変る空を見ながら夕食の支度をする。時々、電話が鳴る。
「見ている?」「うん見ている、見ている」と言いながら空に目を移す。
夕焼けは、毎日見ていて飽きることがない。西の空は、雲を茜に染め刻々と変わってゆく。
「この間よりきれいかも」と友だちが言う。何時のこの間だったかな、夕焼けは毎日少しだけ違って季節を移してゆく。

 夕焼け友だちが、「星の王子さま」の日の入りのお話が好きだと言った。「王子さまが小さな国で、座っているイスをちょっと動かして、何度も夕焼けを見るところがいいよね」と言った。でもその最後に『入日って悲しいときにみるものだろう』というくだりと『四十三度も入日を見るなんてずいぶん悲しかったんだね』と続く。
夕焼け友だちはお互いに悲しい部分を持っているのかなあと思う。