「凍」沢木耕太郎

 山野井泰史をモデルにしたノンフェクションで、タイに出発する2010年ごろに話題になっていたがまだ読んでいなかった。あとがきが池澤夏樹で札幌在住になっていた。

 ギャチュン・カン北壁(7952m)はネパールとチベットの国境にあり、ベースキャンプはチベット側に設ける。スロベニア隊に次いで第2登となったが、下降の際に雪崩に合い手足の指をほとんど失った。


 「妙子と登るときに事故に遭う」と言っていたけど、妙子さんの凍傷はもっと痛ましいものだった。しかし、親指と人差し指のくぼみで包丁も握るし、車のハンドルも握る。指のない手でハーケンさえ打ち、その後はグリーンランドの岩壁を登っている。


 所属していた山岳会の講演で山野井さんと妙子さんに会い、虎杖浜の海岸のボルダリングに行ったことがある。まだ血が滲む足に包帯を巻いてクライミングしていたが指がないのが信じられないくらいに壁と一体化していた。


 その後、タイに赴任中の10月、アンナプルナ内院のトレッキングでばったり出会った。「山野井さんと登るーーー」というトレッキングでお世話になったエージェントへのお返しとのことだった。
 わたしも同じエージェントにお世話になったことがあり、エベレストでサーダーを頼んでいたパサンがトレッキング隊をサポートしていて、7年振りに会えたのが懐かしく嬉しかった。


 そして、年明けに奥多摩にある山野井さんのお宅におじゃまできた。
2006年の「山と渓谷 No.850」は山野井さんの特集で垂直の記録が掲載されている。そのときに奥多摩のお宅も紹介されていたが、その写真と家の中が同じだった。茶の間の北側に部屋を手作りしていただけ。それも5万円かからなかったそう。
 羨ましいくらいシンプルな暮らしだった。そして、山に対してまっすぐで、気さくで、情熱を持っている。


 2017年の年明けに、尊敬するお二人に会え「きっと、よい年間違いなし!」と気合を入れている。