アンナプルナBC 前編

1日目 ダンプスからポタナへ
 翌日、ダンプスからトレッキングを開始。一日目はポタナまでのんびりと3時間。
 アナが地図で明日の宿泊地をみて「今日はこれだけなのに、明日はこんなに歩くの?」と言う。「等高線が込み合っているところは急なんだよ。明日の行程は長いけど沢沿いに歩くから高低がないぶん楽なんだよ」と説明する。高低差と距離感がつかめないみたいだ。
 ところが、またもや問題が発生。パソコンを安全な場所に預かってほしいとガイドのプラカスに頼み、姉の店に預かってもらうということで安心していたのに、昨夜泊まった安宿に置いて来たと言う。
「え〜?なんだかあやしい客ばっかりだったじゃないの!」と自分のことを棚に上げて文句を言う。パソコンのファイルがなくなったら困るじゃないの、と急にトレッキングどころではなくなった。
 プラカスがゲストハウスに電話を入れて鍵のかかる部屋移動してもらうように頼んでくれたし、セーラは「心配してもしなくても結果はひとつだよ、トレッキングを楽しもう!」と言ったが不機嫌だった。
 歩いているうちに、世の中が便利になりすぎて、何かがひとつ欠けても身動きできないような錯覚に陥っている自分に気がついた。
「そうね、文明からかけ離れたような山の中でパソコンの心配をしても、始まらないわね」と反省。さっきまでの不機嫌はどこやらに消えてしまった。




2日目 ポタナからランドルンへ 7:00am〜2:30pm着
 朝食を取っていたら、日本人のご一行様トレッキング隊がやってきた。大勢のシェルパスタッフとポーターが一緒だ。
 エベレストのサポートをしてくれたパサンが同じアンナプルナBCのトレッキングに行くと聞いていたので、「コスモトレックかもしれないから、シェルパに聞いてみて」とプラカスに頼むと、やっぱりそうだった。
 日本人トレッキンググループと挨拶を交わしながら、抜きつ、抜かれつトレッキングを楽しんでいたらランドルン手前でパサンに会うことができた。
「わあ、久しぶりね!パサンに本を届けにきたのよ」と再会の記念撮影。
 28人の日本人トレッキング隊は25人のシェルパスタッフと75人のポーターを雇ったそうだ。賑やかなパーティだ。

 ランドルンの宿でアメリカからきた同世代の兄妹のトレッカーと出会う。
テラスでお茶を飲んでいたら、セーラが「エベレストの頂上ってどれくらいの広さ?」と聞いたので「丁度、これくらいかな」と答えたら、アメリカ人のマイクとローラがびっくりして、エベレストのことをいろいろと訊ねてきた。セーラが「Makiはセブンサミッターだよ」と教えたらまた驚いて、「そんなふうには見えない」と言った。「そうそう、誰もがそう言うのよね」とわたしも笑ってしまった。二人は山が好きで特にマイクはマウンティン・ゴット(山ヤギ)と呼ばれていたそうだ。山の話で盛り上がる。




3日目 ランドルンからチョムロンへ 2:30pm着
 ランドルンを出発してまもなく、山野井泰史さんご夫婦に出会いびっくりした。ネパリーの老人と写真を撮っていたところだった。あいさつをしたがわからなかったようなので「青田さんのガイドで山に登っていた久末です」といったら分かってくれた。トレッキング隊はICIスポーツのツアーだそうだ。最近、パキスタンの山に出かけたけど成功しなかったそうで、相変わらす淡々としている。
 セーラが山野井さんと妙子さんの指が無いのに気がついて「凍傷なの?」と私に聞いた。「そう、命の代わりに指を失ったの」と山野井さんから聞いた指で岩の割れ目を探しながらピトンを打って生還した話をしてあげた。

 マイクとローラと同じ宿になり、夕食後にゲームをして楽しむ。ネパリーマジシャンやコーラスもコインマジックを披露して賑やかなマジックショータイムとなった。
 夜、月が出てアンナプルナとマチャプチャレが白く浮かびあがって美しい。






4日目 チョムロンからヒマヤラホテルへ 6:00am〜4:00pm (7h)
 バンプーが日本人クループと韓国人グループの宿泊地ということで混み合っているので、その上のヒマラヤホテルまで歩行時間7時間の長丁場となった。  
 チョムロンから上は宿が2軒しかないというので宿を予約した上にポーターを先に到着させダブルブッキングさせる方法を取り、ようやく部屋をひとつ確保することができた。
 昼食後に雨が降って来た。標高が上がるにつれて寒くなり雨カッパの上下を着ても体が冷える。アナが半ズボンのままカッパを着ないで歩いていて、プラカスがいくら注意しても歩きづらいからと着ようとしない。
 プラカスに「低体温症になるからアナに命令しなさい」と言う。しかし、アナは「寒くない」ということを聞かないので、側に行って「ほら、触ってみて。あなたの足は冷たくて、わたしの足は温かいでしょう?だんだん冷えたら、バッテリー切れのように突然動けなくなるわよ」と脅かしたらようやくカッパを着た。
 アナは初心者なのにアドバイスを受け入れようとしない。「山ではプラカスがボスなの。これは勧めているのではなく、命令なの。あなたはいつも『Yes』と言って従わなければならないの」と言っても「I can’t」と文句をたれる。なんと強情な、こんな人とは知らなんだ。
 ヒマラヤホテルは混み合っていて部屋は一つ確保されたものの狭く暗い。びしょ濡れなので体が冷える。プラカスが「温かくして」と言うとアナは「シャワーで温まりたい」と当然のように言う。シャワーはないというと「昨日は髪を洗ってないので洗いたい」とわがままなことを言う。「前に、言ったでしょう?シャワーがないところもあるって。濡れたものを全部脱いで温かくしなさい!」と今度はわたしが命令する。まったくしょうもない。
それに反して、トレッカーで混み合う食堂でセーラとコーラスは「いよいよ明日はアンナプルナBCね、すごくわくわくしてきた!」と元気いっぱい。




5日目 ヒマラヤホテルからアンナプルナBCへ
 朝、アナにまたもや問題が。
6時半朝食、7時出発なのにアナが5時前から起きてヘッドランプを付け動き出した。部屋が眩しく、その上ビニール袋をガザガザさせてやかましい。「今、何時?」と聞くと「5時半」と言う。そして毎朝ベッドの上でメデティションをし、仁王立ちになって霊気?とやらを始める。外に出たり入ったりで、何をしているものやら。迷惑を考えない人だ
 朝食後、セーラに「アナとどこで知り合ったの?」と聞かれて「今年の春にスペインで知り合ったの、ちょっと大変な人でごめんなさい」と謝る。
 MBCで昼食をとって、一気にアンナプルナBCに入ることになった。みんな元気なので大丈夫でしょう、とプラカスが予測を立てた。
 しかし、昼食後30分ほど歩いたところでセーラが「Maki、コーラスが頭が痛いと言っている」と告げた。「もっとゆっくり歩いて、水もっと飲んで」アドバイスする。心配したプラカスが後に回りサポートした。
 小雨模様で視界も悪くなりコーラスの足元がふらついてきたので、プラカスは予定を変更してMBCに戻り、明日の朝アンナプルナのBCを往復することに決めた。
 といってもブッキングためにポーターが一人既にBCに到着していて、わたしのザックはアンナプルナBCにある。それでわたしだけがBCへと向った。
 アンナプルナBCに着くと予約していたはずのホテルはいっぱいで、もう一軒のホテルのベッドが二つしか空いていなかった。ドイツ人と韓国人の若者と部屋をシェアし、夕刻、美しいマチャプチャレと月を愛でて早めベッドに入った。