<闇の子供たち> 梁石日(Yan Songiru) 幻冬社文庫

本が読みたくなり、何かないかと本棚を物色したら、この本があった。映画にもなったのでタイトルは知っていた。貧困に喘ぐタイの山岳地帯で起こっている幼児売春、臓器売買の組織がらみの犯罪と人間の飽くなき欲望の恐怖を描いた問題作である。
それは、今でもあることに恐怖を覚える。隣のケノンちゃんは16歳だが、ラオスの山岳地帯で生まれ、村の子供たちが売られたのだが、危機一髪助けられたのだと聞いた。子供がいなくなったあと、なんの収入が無い村に新しい家が建つのだという。貧困故に、そして、そのような子供の一人を助けられたとしても、資本主義の現実は犯罪組織そのものを廃絶させることはない。そこには、モラルや憐憫などは存在しないのだ。
物語の中のセンラーはわずか8歳で父親に売春宿に売り渡され、世界中の裕福層の性的欲望の道具となり、エイズに感染し生きたままゴミ捨て場に捨てられる。食べ物を漁って生き残り、故郷の村に辿り着くが、エイズのため村八分にされ檻に入れられてしまう。もう、生きているのか、死んでいるのか分からない状態になり小さな身体に蟻か群がっていく。母親は「センラーが蟻に食べられる」と叫び、それを見た父親がガソリンをかけ焼き殺してしまう。
救い手として、NGO児童虐待阻止に携わる組織のメンバーのヒロインが登場するが、ことごとく打ちのめされる。しかし、最後の救いの無い状況の中で彼女はタイに残る。それが作者の希望ともいえよう。
東南アジアは、喧噪と猥雑、汗と匂いが入り交じった混沌の中にあり、貧富の格差が大きい。ノーンカーイの地方都市でも、炎天下ですえた匂いのするゴミ箱を漁り、アルミ缶など集めている人たちがいる。その匂いは目眩がするほど強烈だ。一方、大型ショッピングモールでアメリカ並みにカートに食料を買い込んでいる人たちがいる。そこにいる限り貧困は見えてこない。