旅をするのが好きだ。日常から非日常の世界へと踏み出した時の、ふわりと浮遊する感覚がいい
いつも手元に本があった。活字は未知の世界へと導いてくれる扉であり、旅行することなどない暮らしをしていたわたしの五感を刺激してくれた。
旅は飛行機の扉から始まる。扉が開くと異国の匂いに包まれる。活字から現実の世界への旅は、たとえようもないほど魅力的であり、異国に張られた旅の縦糸には新鮮な感動が織り込まれていった。
山に登るようになって旅は山旅になり、より充実したスパイシーなものとなった。
山という空間は大気を体で感じる爽快さがあり、山を登るというひとつの目的は、緊張と解放、達成の喜びを与えてくれる。歩くことはものを考えるのに良く、山行が終る頃には削ぎ落とされた思考が残る。山旅は感動と思考が交差する美しい綾織となった。山をとりまく自然、文化、宗教などが異なり人々の暮らしも違う。七大陸の最高峰、特にネパールの天空に聳えるヒマラヤの白い峰々の荘厳さは言葉にたとえようもない。身の丈でものを考える山旅は自然への畏敬の念を抱かせた。